「運命の人」と沖縄返還密約
先日亡くなられた作家・山崎豊子さんの「運命の人」は、私にとって格別の想いがある作品だ。TVシリーズ放送の後半は、大病で入院中に毎週楽しみに観たものだった。
ストーリーの一部は事実と異なるが、脚色されているからこそ手に汗握る面白さがあった。何と言っても圧巻は、日米の沖縄返還交渉を巡る「密約」を毎朝新聞の弓成記者が暴くシーンである。
実際には、71年の沖縄返還交渉に際して、返還協定での日本側負担額3億2千万ドルとは別に、米側が支払うべき軍用地の原状回復費など400万ドルを日本側が負担するとの密約があった。毎日新聞の西山太吉記者が外務省女性事務官からその資料を入手し、社会党議員が国会で追及して大問題となった。
(佐藤栄作首相とニクソン米大統領)
しかし、佐藤政権は、西山記者と女性事務官との❛不倫関係❜を掴んで反撃。東京地検は、国家公務員法違反で女性事務官(気密漏えい)と西山氏(教唆)を逮捕、告訴した。
裁判では、もっぱら取材方法の適否が問題にされて、一審で事務官は有罪、控訴審で西山氏も有罪となった。当初、表現・言論の自由の観点から西山氏らを擁護したメディアも、不倫関係のスクープに走り、肝心の「密約問題」からは撤退した。
その後、00年、我部政明・琉球大教授らが「密約」に関する米国公文書を入手。そこには、400万ドルとは別に1億8700万ドルを日本側が支払うことも明記されていた。
06年、返還交渉の最高責任者だった吉野文六・外務省元アメリカ局長は、北海道新聞の取材に対し「密約」を認めた。
(西山太吉・元記者と作家・澤地久枝)
ところで、「密約」と言われるものには大きく四つある。
一つは「核持ち込み密約」である。「日本への(核搭載)米軍機の飛来、米艦艇の寄港」を事前協議の適用除外とする秘密合意だ。二つ目は、「朝鮮半島有事密約」である。「朝鮮半島有事の際、日本からの直接出撃」をあらかじめ容認する密約だ。三つ目は、有事の際の沖縄への「核持ち込み密約」である。沖縄返還を合意した69年、佐藤首相の密使として交渉に臨んだ若泉敬・元京都産業大教授が著書「他策ナカリシヲ信ゼムスト欲ス」で密約の経緯を明かした。四つ目が、先述した沖縄返還に伴う「財政負担密約」である。(以上、拙文・戦争と平和を考える「“密約外交”の真相を全面開示せよ」より)
少々くどい長文となったが要するに、戦後の日本外交で最重要としてきた日米基軸=「安保条約」の肝心な部分がことごとく「密約」で覆い隠されてきたという、驚くべき事実である。佐藤首相は「沖縄返還密約」に関して、当時の参院予算委員会で「『国家秘密法』がぜひ必要である」と強調している。今、問題とされている「特定秘密保護法案」に通底するものだ。
ストーリーの一部は事実と異なるが、脚色されているからこそ手に汗握る面白さがあった。何と言っても圧巻は、日米の沖縄返還交渉を巡る「密約」を毎朝新聞の弓成記者が暴くシーンである。
実際には、71年の沖縄返還交渉に際して、返還協定での日本側負担額3億2千万ドルとは別に、米側が支払うべき軍用地の原状回復費など400万ドルを日本側が負担するとの密約があった。毎日新聞の西山太吉記者が外務省女性事務官からその資料を入手し、社会党議員が国会で追及して大問題となった。
(佐藤栄作首相とニクソン米大統領)
しかし、佐藤政権は、西山記者と女性事務官との❛不倫関係❜を掴んで反撃。東京地検は、国家公務員法違反で女性事務官(気密漏えい)と西山氏(教唆)を逮捕、告訴した。
裁判では、もっぱら取材方法の適否が問題にされて、一審で事務官は有罪、控訴審で西山氏も有罪となった。当初、表現・言論の自由の観点から西山氏らを擁護したメディアも、不倫関係のスクープに走り、肝心の「密約問題」からは撤退した。
その後、00年、我部政明・琉球大教授らが「密約」に関する米国公文書を入手。そこには、400万ドルとは別に1億8700万ドルを日本側が支払うことも明記されていた。
06年、返還交渉の最高責任者だった吉野文六・外務省元アメリカ局長は、北海道新聞の取材に対し「密約」を認めた。
(西山太吉・元記者と作家・澤地久枝)
ところで、「密約」と言われるものには大きく四つある。
一つは「核持ち込み密約」である。「日本への(核搭載)米軍機の飛来、米艦艇の寄港」を事前協議の適用除外とする秘密合意だ。二つ目は、「朝鮮半島有事密約」である。「朝鮮半島有事の際、日本からの直接出撃」をあらかじめ容認する密約だ。三つ目は、有事の際の沖縄への「核持ち込み密約」である。沖縄返還を合意した69年、佐藤首相の密使として交渉に臨んだ若泉敬・元京都産業大教授が著書「他策ナカリシヲ信ゼムスト欲ス」で密約の経緯を明かした。四つ目が、先述した沖縄返還に伴う「財政負担密約」である。(以上、拙文・戦争と平和を考える「“密約外交”の真相を全面開示せよ」より)
少々くどい長文となったが要するに、戦後の日本外交で最重要としてきた日米基軸=「安保条約」の肝心な部分がことごとく「密約」で覆い隠されてきたという、驚くべき事実である。佐藤首相は「沖縄返還密約」に関して、当時の参院予算委員会で「『国家秘密法』がぜひ必要である」と強調している。今、問題とされている「特定秘密保護法案」に通底するものだ。
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